バスケという部活の悲劇

 

「安西先生、バスケがしたいです・・・」

 

誰もが一度はほざいたことがあるでしょう。
有名すぎるがゆえにもはや使い古され、言葉にするのも恥ずかしい。
そんなありきたりな一言が、この物語の始まりでした。

 

元バスケ部のK村くんやMモちゃんあたりを発起人として
バスケ企画が持ち上がっては消え、盛り上がっては冷め、
ついには参加条件の「元バスケ部」という枠すら撤廃。

 

バレー部もOK。運動部ならOK。背高い人もOK。ヒマならOK。その友達もOK
と無尽蔵に枠は広げられていき、構想から2年後「CNSバスケ部」は開催されました。

 

開催場所は「廃墟ビルでバスケしよう!」という
キラーワードで若者たちを惹きつける川崎のとあるスポーツ施設。

一時間7,000円という廃墟とは思えない強気な価格設定ながら、
そこでバスケっていけてるよねというノリだけで予約を敢行。

「元バレー部でそこそこヒマ枠」で選ばれたわたくしN澤は
「元CNSで呼べば来るでしょ枠」T井くんと待ち合わせ、
戦いの前の儀式を厳かにおこないながら川崎に向かいました。

 

この時はまだ、のちに起きる悲劇を知る由もなく・・・。

 

川崎の開催場所にたどり着くと38度の高熱が出ました」という
どう考えてもヒヨッただけのK関くんは欠席となりましたが、
総勢10名の猛者たちが廃墟に集結。

バスケ経験者、身長、性別、年齢、様々な人間が集まったにも関わらず
グッパーという古典的なチーム分けで戦いは始まりました。

 

「ティップオフ!!」(っていうらしい)

みんな一時間7,000円の元をとろうと
休憩もほどほどにバスケを楽しみました。

 

(ここから二時間バスケ。無駄に長いので省略)

 

「あとラスト1ゲームぐらいかねー」

そんな声が聞こえてきた頃、あの忌まわしき悲劇が。。。

 

リバウンドを制したT井くんからA木を経由して
前線に残っていたN澤に今日イチの鋭い縦パスが!

 

キターーー!!

 

がしかし、パスコース近くにいた経験者のMモちゃん。
さすがの反応で、パスカットすべく必死に手を伸ばす!

Mモちゃんの手に微かに触れたことによって
若干の軌道を変えた今日イチの鋭いバスは
N澤の左手小指の先端に、突き刺さったのでした。

 

誰しも小さい頃、みかんの皮をむいた後、
人差し指をみかんの真ん中に刺したことありますよね?

 

あれをバスケットボールと小指に置き換えて想像してください。

 

痛い。激しく痛い。激痛です。

だって刺さったんだもん。小指に。
あの茶色くて無駄に硬いボールが。垂直に。

とはいえ最年長だった私は、心配というにはあまりにもニヤついているみんなに
「まーそんなでもないよ。。。」と脂汗を流しながら笑顔で応えプレーを続行。

朦朧とした意識の中で試合終了のホイッスルを聞いたのでした。

 

清々しい汗と脂汗を流したあとは、
どうしたってビールを飲みたくなるのが人間。そしてCNS
帰りたがる我が小指を説得して、みんなで吸い込まれるように
川崎駅前の居酒屋さんにピットイン。

とりあえずのビールと共にいつもなら
チャンジャやサメ軟骨梅肉和えをオーダーする私ですが、
「氷水を袋にがちがちに入れてください」
居酒屋で生涯初のオーダーをさせていただきました。

困惑する店員さんのご好意によりいただいた
キンキンに冷えた氷の袋を左手に、
キンキンに冷えたいつものジョッキを右手に、
ゆっくりと、そしてひんやりと夜は更けていくのでした。

 

アルコールの恩恵に預かり多少痛みは引いてきたものの、
自宅最寄り駅に着く頃にふと左手を見ると
小指が紫色にそして左手全体もなんだかまだらに色づいていました。
今日1日のすべてがここに詰まっているような気がしました。

 

翌日月曜日、昨日のエピソードに若干のアレンジを加え
ド紫色の小指を得意げに自慢していた私ですが
断固として曲がらない小指と、加速する痛みに一抹の不安を覚え
会社近くにある外科の門戸を叩きました。もちろん右手で。

 

「折れてるね。見るからに。」

 

レントゲンすら撮っていないドクターの無慈悲な第一声。

 

「ですよね。」

 

震える声をドクターに悟られないように毅然に振舞いました。

その後、一応レントゲンを撮り正式な診断をいただきました。

 

 

「第五指中節骨の骨折、ちなみに2箇所ね。

 

 

 

平日の昼下がり、街の小さな外科医院を訪れる人は少ない。

昨日の出来事がまるで夢だったかのように

深い静寂に包まれた病院の待合室でひとりお会計を待つ。

ギブスで固定されまともに動かなくなった小指を見つめ、

私の胸に去来したのは、使い古されたあの言葉。

 

「安西先生、バスケがしたいです・・・」

 

やっと本当の意味がわかった気がした。

 

<了>

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